I.自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎とは

中年以降の女性に好発し,慢性に経過する肝炎であり,肝細胞障害の成立に自己免疫機序が想定される.診断にあたっては,肝炎ウイルス,アルコール,薬物による肝障害,および他の自己免疫疾患にもとづく肝障害を除外する.免疫抑制剤,特にコルチコステロイドが著効を奏す.(1966年厚生省「難治性の肝疾患」調査研究班)

自己免疫性肝炎の診断

主要所見

1.血中自己抗体(特に抗核抗体,抗平滑筋抗体など)が陽性
2.血清γ-グロブリン値またはIgG値の上昇(2g/dl以上)
3.持続性または反復性の血清トランスアミナーゼ値の異常
4.肝炎ウィルスマーカーは原則として陰性
5.組織学的には肝細胞壊死所見およびpiecemeal necrosis を伴う慢性肝炎あるいは肝硬変であり,しばしば著明な形質細胞浸潤を認める.ときに急性肝炎像を呈する.

上記の主要所見1,から4.より自己免疫性肝炎が疑われた場合,組織学的検査を行い,自己免疫性肝炎の国際診断基準を参考に診断する.

スコアリングシステム

スコアリングシステム

(International Autoimmune Hepatitis Group,1999)

項目

基準 点数
性別

女性

+2

ALP/AST or ALP/ALT < 1.5

+2

1.5 - 3.0

0

> 3.0

-2

グロブリン or IgG

> 2.0

+3

1.5 - 2.0 +2
1.0 - 1.5 +1
< 1.0 0
ANA*,SMA2*,LKM-1抗体3*  > 1:80 +3
 1:80 +2
 1:40 +1
 < 1:40 0
AMA4* 陽性 -4
肝炎ウイルスマーカー 陽性 -3
陰性 +3
薬物投与歴 陽性 -4
陰性 +1
平均アルコール摂取量 <25g/日 +2
>60g/日 -2
HLA DR3 or DR4 +1
他の自己免疫疾患 陽性 +2
他の自己抗体 陽性 +2

組織所見

Interface hepatitis

+3

形質細胞浸潤

+1

ロゼット形成

+1

上記所見なし

-5

胆管病変

-3

他の所見

-3

治療反応性

著効

+2

再発

+3

(*:抗核抗体,2*:抗平滑筋抗体,3*:肝腎マイクロゾーム抗体,4*:抗ミトコンドリア抗体)

確診:>15点

疑診:10-15点

簡易型スコアリングシステム

(International Autoimmune Hepatitis Group,2008)

項目

基準 点数
自己抗体 ANA or SMA > 1:40 +1
ANA or SMA > 1:80 +2
LKM-1抗体 > 1:40 +2
SLA抗体* 陽性 +2
IgG > 正常上限の1.1倍 +2
> 正常上限 +1
正常 0
組織所見 典型像 +2
適応像 +1
なし 0
肝炎ウイルスマーカー 陰性 +2
陽性 0

(*:肝可溶性抗原抗体)

確診:>7点

疑診:6点

分類

1型自己免疫性肝炎

自己抗体として,ANA,SMA,SLA等が陽性

2型自己免疫性肝炎

自己抗体として、LKM-1,肝サイトゾル抗体1型(LC-1:liver cytosol antibody type 1)等が陽性

自己免疫性肝炎の治療

ステロイド

診断が確定した例では原則として,免疫抑制療法 (プレドニゾロン)を行ないます.プレドニゾロン 30-40mg/日で開始し,血清トランスアミナーゼ値の改善を効果の指標に漸減します.維持量は血清トランスアミナーゼ値の正常化をみて決定します.

免疫抑制剤

副腎皮質ステロイドの効果が不十分あるいは副作用のため十分量使用できない場合にはアザチオプリンなどの免疫抑制剤を併用します.

ウルソデオキシコール酸(UDCA:ursodeoxycholic acid)

軽症例に対してはウルソデオキシコール酸で治療することもあります.

肝移植

急性肝不全に対する生体肝移植の5年生存率は65%と報告されています(移植 43:458,2008).また,移植後の再発率は12-50%とされています(Liver Transpl 15:S25,2009).一方,自己免疫性肝炎以外の肝疾患での移植後に出現する,自己免疫性肝炎の基準を満たすde novo autoimmune hepatitis の報告があります(Lancet 351:409,1998).

ウイルス性肝炎合併例

B型肝炎合併例

ステロイド治療を施行する際は,ウイルス量をモニタリングし,核酸アナログ製剤も併用する(肝臓 46:557,2005).

C型肝炎合併例

国際診断基準(scoring system)でのスコアが高い症例ではステロイド治療を,スコアが低い症例ではインターフェロン治療が考慮されます.インターフェロン投与開始後は血中ウィルス量,肝機能を測定し,明らかな改善がみられない場合には速やかに投与を中止し,免疫抑制剤の使用を考慮します.

 

II.原発性胆汁性肝硬変

原発性胆汁性肝硬変とは

原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis,以下PBC)は,病因・病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である.中高年女性に好発し,皮膚掻痒感で初発することが多い.黄疸は出現後,消退することなく漸増することが多く,門脈圧亢進症状が高頻度に出現する.臨床上,症候性(symptomatic)PBC(sPBC) と無症候性(asymptomatic)PBC (aPBC)に分類され,皮膚掻痒感,黄疸,食道胃静脈瘤,腹水,肝性脳症など肝障害に基づく自他覚症状を有する場合は,sPBC と呼ぶ.これらの症状を欠く場合はaPBC と呼び,無症候のまま数年以上経過する場合がある.sPBCのうち2mg/dl以上の高ビリルビン血症を呈するものをs2PBCと呼び,それ未満をs1PBCと呼ぶ(「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 原発性胆汁性肝硬変分科会).

原発性胆汁性肝硬変の診断

血液・生化学検査所見

症候性,無症候性を問わず,血清胆道系酵素(ALP,γGTP)の上昇を認め,抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibodies,以下AMA)が約90%の症例で陽性である.また,IgMの上昇を認めることが多い.

組織学的所見

肝組織では,肝内小型胆管(小葉間胆管ないし隔壁胆管)に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis,以下CNSDC)を認める.病期の進行に伴い胆管消失,線維化を生じ,胆汁性肝硬変へと進展し,肝細胞癌を伴うこともある.

合併症

慢性胆汁うっ滞に伴い,骨粗鬆症,高脂血症が高率に出現し,高脂血症が持続する場合に皮膚黄色腫を伴うことがある.シェーグレン症候群,関節リウマチ,慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併することがある.

鑑別診断

自己免疫性肝炎,原発性硬化性胆管炎,慢性薬物性肝内胆汁うっ滞,成人肝内胆管減少症など

次のいずれか1つに該当するものをPBC と診断する

1)組織学的にCNSDC を認め,検査所見がPBC として矛盾しないもの
2)AMAが陽性で,組織学的にはCNSDC の所見を認めないが,PBC に矛盾しない(compatible)組織像を示すもの
3)組織学的検索の機会はないが,AMA が陽性で,しかも臨床像及び経過から PBC と考えられるもの

組織学的分類

Scheuer 分類

表 Scheuer 分類(Scheuer PJ,1967)

I期

florid bile duct lesion

II期 ductular proliferation
III期 scarring, septal fibrosis and bridging

IV期

cirrhosis

 

Ludwig 分類

表 Ludwig 分類(Ludwig et al,,1978)

I期

portal hepatitis

II期 periportal hepatitis
III期 septal(bridging)fibrosis

IV期

cirrhosis

組織病期

表 組織病期

Stage A.線維化+B.胆管消失

Stage 1

no progression

0
Stage 2 mild progression 1-2
Stage 3 moderate progression 3-4

Stage 4

advanced progression

5-6

A.線維化

門脈域での線維化がない or 線維化が門脈域に限局

0

門脈域周囲の線維化 or 不完全な線維性隔壁を伴う門脈域線維化 1
種々の小葉構造の乱れを伴う架橋性線維化 2

再生結節と高度の線維化を伴う肝硬変

2

B.胆管消失

胆管消失がない

0

1/3以下の門脈域で胆管消失をみる 1
1/3-2/3 の門脈域で胆管消失をみる 2

2/3 以上の門脈域で胆管消失をみる

3

原発性胆汁性肝硬変の治療

薬物療法

ウルソデオキシコール酸(UDCA:ursodeoxycholic acid)

1日600mg の投与が標準とされていますが,効果が少ない場合は900mgまでの増量が試みられています.

ベザフィブラート

保険適用外ですが,UDCA 無効例に対してベザフィブラート1日400mg の投与が,試みられています.

肝移植

病態が進行すれば肝移植が唯一の治療手段 となります.2010年までにわが国で施行された成人生体肝移植は3796例ですが,原発性胆汁性肝硬変症例が535例(14%)を占めています.

日本肝移植適応研究会の予後予測式

λ=−4.333+1.2739×loge (total bilirubin値) +4.4880×loge(AST/ALT)
6カ月後の死亡確率(%)=1/(1+ e-λ)×100

Mayo Clinic の予後予測式(Updated 版)

R=0.051(age)+ 1.209 loge(bilirubin)-3.304 loge(albumin) +2.754loge (prothrombin time)
+0.675 loge(edema*)
*edema:0=no edema without diuretics,0.5=edema without diuretics therapy or edema resolved with diuretic therapy,1=edema despite diuretic therapy

移植成績

わが国での移植成績は,5年生存率は76.5%,10年生存率は55.6%と報告されています(移植 46:524,2011).

原発性胆汁性肝硬変の予後

無症候性

診断時無症候であった症例の80%は無症状のまま経過し,その大部分は生命予後は一般集団と変わらないとされ,5年生存率は97.7%,10年生存率は93.3%,20年生存率は82.1%と報告されています(日内誌 88:597,1999)

症候性

5年生存率は79.5%,10年生存率は65.5%,20年生存率は50.2%と報告されています(日内誌 88:597,1999)

 

 

III.オーバーラップ症候群

オーバーラップ症候群とは

原発性胆汁性肝硬変と自己免疫性肝炎の両者の特徴を併せ持った病態

オーバーラップ症候群の診断

Paris 基準(Hepatology 28:296,1998)

原発性胆汁性肝硬変と自己免疫性肝炎の診断に必要な3項目のうち2項目以上満たすもの

原発性胆汁性肝硬変

1.血清アルカリホスファターゼが正常の2倍以上または γ-GTPが正常の5倍以上
2.抗ミトコンドリア抗体陽性
3.肝生検で破壊性胆管炎を認めること

自己免疫性肝炎

1.血清ALTが正常の5倍以上
2.血清IgG値が正常の2倍以上または抗平滑筋抗体が陽性
3.肝生検で門脈周囲あるいは線維性隔壁周辺に中等度以上のリンパ球浸潤を伴う限界板破壊像を認めること

オーバーラップ症候群の治療

ステロイド単独またはウルソデオキシコール酸併用療法(J Hepatol 51:237,2009)が有効とされています.