I.急性膵炎について

定義

膵臓の急性炎症で,他の隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼし得るもの.

成因について

男性ではアルコールが約4割を占め,女性では胆石が約3割を占めています.

診断について

臨床症状

腹痛,背部への放散痛,食欲不振,発熱,嘔気・嘔吐、腸雑音の減弱などが頻度の高い症状ですが,特異的なものではありません.

身体所見

Grey-Turner徴候(側腹壁),Cullen徴候(臍周囲),Fox徴候(鼠径靭帯下部)などの皮膚着色斑が有名ですが,その出現頻度は3%とまれです.

生化学検査

血中アミラーゼ,血中p型アミラーゼ,尿中アミラーゼ,血中リパーゼ,血中エラスターゼ1、血中トリプシン、血中ホスホリパーゼA2の上昇がみられます.

 画像検査

単純X線

イレウス像,左上腹部の局所的な小腸拡張像(sentinel loop sign),十二指腸ループの拡張・ガス貯留像,右側結腸の限局性ガス貯留像(colon cut-off sign)などがみられます.

腹部超音波検査

膵腫大や膵周囲の炎症性変化および腹水,胆道結石,総胆管拡張などの急性膵炎の原因や病態に関連する異常所見の検出が可能です.

腹部CT検査

膵腫大,膵周囲の炎症性変化,液体貯留,膵実質densityの不均一化,外傷時の膵断裂像などの診断に有用です.

 急性膵炎診断基準(厚生労働省難治性膵疾患調査研究班 2008年)

上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある

血中または尿中に膵酵素の上昇がある

US,CTあるいはMRIで膵に急性膵炎を示す所見がある

上記3項目中2項目を満たすもの.慢性膵炎の急性憎悪は急性膵炎に含める.

 急性膵炎重症度判定基準(厚生労働省難治性膵疾患調査研究班 2008年改定)

予後因子(各1点,発症後48時間以内に判定)

1. BE≦一3mEq/l またはショック(収縮期血圧 ≦ 80mmHg)

2. PaO2 ≦ 60mmHg

3. BUN ≧ 40mg/dl (または Cr ≧ 2.0mg/dl)

4. LDH ≧ 基準値上限の2倍

5. 血小板数 ≦ 10万/mm3

6. 総Ca値≦7.5 mg/dl

7. CRP ≧ 15mg/dl

8. SIRS 診断項目 ≧ 3

        体温 > 38℃ or < 36℃

        脈拍 > 90回 / 分

        呼吸数 > 20回 / 分 or PaCO2 < 32mmHg

        白血球数 > 12000mm3 or < 4000mm3

9. 年齢 ≧ 70歳

2点以下:軽症,3点以上:重症

腹部造影CT検査(発症後48時間以内に判定)

炎症の膵外進展度

0点 前腎傍腔
1点 結腸間膜根部
2点 腎下極以遠

膵の造影不良域

0点 3つの各区域(膵頭部,膵体部,膵尾部)に限局または膵周辺のみの場合
1点 2つの区域にかかる場合
2点 2つの区域全体を占めるまたはそれ以上の場

CT grade 1:軽症,CT grade2 以上:重症

造影CT Grade 分類

 

炎症の膵外進展度

前腎傍腔

結腸間膜根部

腎下極以遠

造影不良域

< 1/3

Grade 1

Grade 1

Grade 2

1/3 - 1/2

Grade 1

Grade 2

Grade 3

>1/2

Grade 2

Grade 3

Grade 3

 旧急性膵炎重症度判定基準(2003年)

CT Grade分類

Grade CT所見
異常なし
U 膵腫大のみ
V 膵周囲組織に炎症波及あり
W 一領域に浸出液貯留あり
複数領域に浸出液貯留あり

重症度スコア(厚生労働省特定疾患難治性膵疾患調査研究班)

予後因子1

ショック,呼吸困難,神経症状,重症感染症,出血傾向,Ht≦30%,BE≦一3mEq/l,BUN≧40mg/dl (or Cr≧2.0mg/dl)

各2点
予後因子2

Ca≦7.5 mg/dl,FBS≧200mg/dl,PaO2≦60mmHg,LDH≧700IU/l,総蛋白≦6.0g/dl,プロトロンビン時間≧15秒,血小板≦10万/mm3,CT Grade IV/V

各1点
予後因子3 SIRS診断基準における陽性項目数≧3 2点
年齢≧70歳 1点

1. 原則として入院48時間以内に判定し,以後,経時的に検索する.
2. 臨床徴候,およびCT Gradeの診断は以下の基準とする.
    ショック:収縮期血圧が80mmHg以下,および80mmHg以上でもショック症状を認めるもの.
    呼吸困難:人工呼吸器を必要とするもの.
    神経症状:中枢神経症状で意識障害(痛みにのみ反応)を伴うもの.
    重症感染症:白血球増多を伴う38℃以上の発熱に,血液細菌培養陽性やエンドトキシンの証明,あるいは腹腔内膿瘍を認めるもの.
    出血傾向:消化管出血,腹腔内出血(Cullen徴候,Grey-Tuner徴候を含む),あるいはDICを認めるもの.
     SIRS診断基準項目:1.体温>38℃あるいは<36℃
                                              2.脈拍>90回/分
                                              3.呼吸数>20回/分あるいはPaCO2<32 torr
                                              4.白血球数>12,000/mm3か<4,000/mm3または>10%幼若球出現
     CT Grade IV/V:Grade IVは膵内部不均一像が膵全体にみられるか,あるいは炎症の波及が膵周囲を越えるもの.

                                   GradeVは膵内部不均一が膵全体にみられ,かつ炎症の波及が膵周囲を越えるもの.
3. 全身状態が良好で,予後因子(1)および予後因子(2)をいずれも認めず,血液検査成績も正常に近いものを軽症と判定する.
4. 予後因子(1)を認めず,予後因子(2)が1項目のみ陽性のものを中等症と判定する.
5. 予後因子(1)が1項目以上,あるいは予後因子(2)が2項目以上陽性のものを重症と判定する.
6. 重症急性膵炎症例では,予後因子(3)を含めた各予後因子の陽性項目の点数を計算し,それを重症度スコアとする.

stage分類

stage 0 軽症急性膵炎
stage 1 中等症急性膵炎
stage 2 重症急性膵炎(重症I):2-8点
stage 3 重症急性膵炎(重症U):9-14点
stage 4 重症急性膵炎(重症V):15-27点

 Ransonスコア

入院時

Age

>55years

WBC

>16,000/mm3

Glucose

>200mg/dl

LDH

>350 IU/l

AST

>250 U/l

48時間後

Ht decrease of

>10

BUN increase of

>5mg/dl

Ca

<8mg/dl

PaO2

<60mmHg

Base deficit

>4mEq/l

Fluid sequestration

>6l

2項目以下:軽症,3項目以上:重症

 Glasgow スコア

  Imrie et al.

Osborne et al.

Blamey et al.

年齢 >55

-

>55

48時間以内の変化  

 

 

  ALT (IU/l) >100

>200

-

  WBC (/mm3) >15000

>15000

>15000

  血糖 (mg/dl) >180

>180

>180

  BUN >45

>45

>45

  動脈酸素飽和度 (mmHg) <60

Ca<60

<60

  血清Ca (mg/dl) <8

<8

<8

  血清Alb (g/dl) <3.2

<3.2

<3.2

  LDH (U/l) >600

>600

>600

2項目以下:軽症,3項目以上:重症

 

治療について

輸液

通常の維持輸液に加え,炎症に伴う循環血漿量の低下を補うために十分な初期輸液を行なう.

薬物療法

鎮痛薬

pentazocine,buprenorphine

抗菌薬

cephotaxime,carbapenem

蛋白分解酵素阻害薬

gabexate mesilate 2,400mg/日(Hepatogastroenterology 47:1147,2000)(保険診療上認められている使用量は600mg/日)

H2受容体拮抗薬

急性胃粘膜病変や消化管出血の合併例,もしくは合併する可能性がある症例に使用.

CDPコリン

シチコリン1g×1/日×1-2週間

選択的消化管除菌

norfloxacin+colistin+amphotericin

腹腔洗浄

血性腹水や壊死組織を生理食塩水など等張液を用いて直接洗い流す方法.

蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬持続動注療法

薬剤の膵組織濃度を高めることができるため,膵組織の炎症進展と感染性膵壊死を抑制することが期待でき ます.

血液浄化法

humoral mediator除去効果を期待して施行され,腹膜透析,血液透析,持続的血液濾過,持続的血液濾過透析,血漿交換などが臨床応用されています.

内視鏡的治療

ドレナージ

ダンベル型自己拡張型メタルステントを用いた経消化管的ドレナージが保険承認されています.

ネクロストミー

経消化管的または経皮的にネクロストミーが施行され,良好な成績が報告されています(Endoscopy 45:627,2013).

経消化管的アプローチ 経皮的アプローチ

 

II.慢性膵炎について

定義

膵臓の内部に不規則な線維化,細胞浸潤,実質の脱落,肉芽組織などの慢性変化が生じ,進行す
ると膵外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である.膵内部の病理組織学的変化は,基本的には膵
臓全体に存在するが,病変の程度は不均一で,分布や進行性も様々である.これらの変化は,持続
的な炎症やその遺残により生じ,多くは非可逆性である.
慢性膵炎では,腹痛や腹部圧痛などの臨床症状,膵内・外分泌機能不全による臨床症候を伴うも
のが典型的である.臨床観察期間内では,無痛性あるいは無症候性の症例も存在し,このような例
では,臨床診断基準をより厳密に適用すべきである.慢性膵炎を,成因によってアルコール性と非
アルコール性に分類する.自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は,治療により病態や病理所見が改善する
事があり,可逆性である点より,現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う.

分類

アルコール性慢性膵炎

非アルコール性慢性膵炎(特発性,遺伝性,家族性など)

注1.自己免疫性膵炎および閉塞性膵炎は,現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う.

成因について

2002年の全国調査ではアルコール性が67.5%,原因不明の特発性が20.6%,胆石性が3.1%であり,男性ではアルコール性が76.6%,女性では特発性が76.6%と最も多 い成因でした.

The TIGAR-O Classification System (version 1.0)

表 The TIGAR-O Classification System

Toxic-Metabolic

Alcoholic

Tobacco smoking

Hypercalcemia (hyperparathyroidism)

Hyperlipidemia

Chronic renal failure
Medication (phenacetin abuse)
Toxins (organotin compounds)
Idiopathic Early onset
Late onset
Tropical
Other
Genetic Autosomal dominant (PRSS1 mutations)
Autosomal recessive (CFTR mutations,SPINK1 mutations)
Complex / modifiers
Autoimmune Isolated autoimmune episodes
Syndromic autoimmune disorders
Recurrent and severe acute pancreatitis Postnecrotic (severe acute pancreatitis)
Recurrent acute pancreatitis
Vascular diseases / ischemia
Postirradiation
Obstructive Pancreatic divisum
Sphincter of Oddi disorders
Duct obstruction
Preampullary duodenal wall cysts
Post-traumatic pancreatic duct scars

症状

腹痛

持続性で上腹部を中心に背部に放散

knee-chest-positionで軽快

消化吸収障害

糖尿病

診断について (慢性膵炎臨床診断基準2019)

慢性膵炎の診断項目

@特徴的な画像所見
A特徴的な組織所見
B反復する上腹部痛発作
C血中または尿中膵酵素値の異常
D膵外分泌障害
E1日60g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴 または膵炎関連遺伝子異常

F急性膵炎の既往

慢性膵炎確診:a,b のいずれかが認められる

a.@またはAの確診所見
b.
@またはAの準確診所見と,BCDのうち2項目以上

慢性膵炎準確診:@またはAの準確診所見が認められる

早期慢性膵炎:B〜Fのいずれか3項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる

注:@Aのいずれも認めず,B〜Eのいずれかのみ2項目以上有する症例のうち,他の疾患が否定されるものを慢性膵炎疑診例とする.疑診例には3カ月以内にEUSを含む画像診断を行うことが望ましい.

注:BまたはCの1項目のみ有し早期慢性膵炎の画像所見を示す症例のうち,他の疾患が否定されるものは早期慢性膵炎の疑いがあり,注意深い経過観察が必要である.

特徴的な画像所見

確診所見:以下のいずれかが認められる

a.膵管内の結石
b.膵全体に分布する複数ないしび漫性の石灰化
c.MRCPまたはERCP 像において,主膵管の不整な拡張と共に膵全体に不均等に分布する分枝膵管の不規則な拡張
d.ERCP 像において,主膵管が膵石,蛋白栓などで閉塞または狭窄している場合,乳頭側の主膵管と分枝膵管の不規則な拡張

準確診所見:以下のいずれかが認められる

a.MRCP またはERCP像において, 膵全体に不均衡に分布する分枝膵管の不規則な拡張,主膵管のみの不規則な拡張,タンパク栓のいずれか
b.ERCP 像において,膵全体に分布するび漫性の分枝膵管の不規則な拡張,主膵管のみの不整な拡張,蛋白栓のいずれか
c.CT において,主膵管の不規則なび漫性の拡張と共に膵の変形や萎縮
d.US(EUS)において,膵内の結石またはタンパク栓と思われる高エコー,または主膵管の不規則な拡張を伴う膵の変形や萎縮

特徴的な組織所見

確診所見

膵実質の脱落と線維化が観察される.膵線維化は主に小葉間に観察され,小葉が結節状,いわゆる硬変様をなす.

準確診所見

膵実質が脱落し,線維化が小葉間または小葉間・小葉内に観察される.

血中または尿中膵酵素値の異常:以下のいずれかが認められる

a.血中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは低下
b.尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇

膵外分泌障害

BT-PABA 試験で明らかな低下を認める

早期慢性膵炎の画像所見:a.b のいずれかが認められる

a.以下に示す EUS 所見4項目のうち,(1)または(2)のいずれかを含む2項目以上が認められる

(1)点状またはエコー索状高エコー(hyperechoic foci or strands)
(2)分葉エコー(lobularity)
(3)主膵管境界高エコー(hyperechoic MPD margin)
(4)分枝膵管拡張(dilated side branches)
 

b.MRCPまたはERCP 像で,3本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められる

治療について

内科的治療

食事療法

脂肪制限

薬物療法

抗コリン薬 :迷走神経を介する膵外分泌刺激を抑制

鎮痙薬

蛋白分解阻害薬 :異所性に活性化された膵酵素を抑制

CCK受容体拮抗薬,ソマトスタチン誘導体:膵外分泌抑制作用

消化吸収障害:消化酵素,H2-blocker,PPI

糖尿病:insulin

  内視鏡治療

ESWL

膵管ステント

仮性嚢胞:経消化管的ドレナージ,経乳頭的ドレナージ

  外科的治療

Puestow 手術( 尾側膵管空腸吻合術)

 

Partington 手術(膵管空腸側々吻合術)

 

Frey 手術(膵頭部芯抜きを伴う膵管空腸側々吻合術)

 

Beger 手術(十二指腸温存膵頭切除術)

Whipple法(膵頭十二指腸切除術)

 

予後について

自立率

1994年の厚生労働省特定疾患難治性膵疾患調査研究班の報告によれば,日常生活への影響は,支障なし(86%),自宅療養中(10%),入院中(4%)でした.

死因

2003年の厚生労働省特定疾患難治性膵疾患調査研究班の報告では,悪性新生物(44%),脳血管障害(6.4%),肝不全(6.0%),腎不全(6.0%)が上位を占めました.

 

III.自己免疫性膵炎について

自己免疫性膵炎(Autoimmune Pnacreatitis;AIP)とは

自己免疫性膵炎とはその発症に自己免疫機序の関与が疑われる膵炎である.現状では,びまん性の膵腫大や膵管狭細像を示す症例が中心であり,高γグロブリン血症,高IgG血症や自己抗体の存在,ステロイド治療が有効など,自己免疫機序の関与を示唆する所見を伴う膵炎である (厚生労働省難治性膵疾患調査研究班).欧米では,組織学的に好中球上皮病変を伴うIgG4の関与しないAIPが存在するため,IgG4の関与する1型AIPとIgG4の関与しない好中球病変を特徴とする2型AIPに分類する国際診断基準が発表されました(Pancreas 40:352,2011).

診断基準

自己免疫性膵炎臨牀診断基準2006(膵臓 21:395,2006)

1. 膵画像検査で特徴的な主膵管狭細像と膵腫大を認める.
2. 血液検査で高γグロブリン血症,高IgG血症,高IgG4血症,自己抗体のいずれかを認める.
3. 病理組織学的所見として膵にリンパ球,形質細胞を主とする著明な細胞浸潤と線維化を認める.
上記の1を含め2項目以上を満たす症例を自己免疫性膵炎と診断する.

自己免疫性膵炎臨牀診断基準2018(膵臓 35:465,2020)

I.膵腫大:
  a.びまん性腫大(diffuse)
  b.限局性腫大(segmental/focal)
II.主膵管の不整狭細像:a.ERP,b.MRCP
III.血清学的所見
  高IgG4 血症(≧135mg/dl)
IV.病理所見:以下の@〜Cの所見のうち
  a. 3 つ以上を認める
  b. 2 つを認める
  c. Dを認める
  @高度のリンパ球,形質細胞の浸潤と,線維化
  A強拡 1 視野当たり 10 個を超える IgG4 陽性形質細胞浸潤
  B花筵状線維化(storiform fibrosis)
  C閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)
  D超音波内視鏡下穿刺吸引(EUS-FNA)で腫瘍細胞を認めない
V.膵外病変:硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎,後腹膜線維症,腎病変
   a.臨床的病変
  臨床所見および画像所見において,膵外胆管の硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎(Mikulicz 病),後腹膜線維症あるいは腎病変と診断できる
  b.病理学的病変
  硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎,後腹膜線維症,腎病変の特徴的な病理所見を認める
VI.ステロイド治療の効果
   
I.確診
  @びまん型:Ia+<III/IVb/V (a/b) >
  A限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V (a/b) >の 2 つ以上 or Ib+IIa+<III/IVb/V (a/b) >+VI or
                         Ib+IIb+<III/V (a/b) >+IVb+VI
  B病理組織学的確診:IVa
II.準確診
  限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V (a/b) > or Ib+IIb+<III/V (a/b) >+IVc or
                              Ib+<III/IVb/V (a/b) >+VI
III.疑診
  びまん型:Ia+II (a/b)+VI
  限局型:Ib+II (a/b)+VI

臨床所見

中高年の男性に多く,上腹部不快感,胆管狭窄による閉塞性黄疸,糖尿病などが認められます.また,硬化性胆管炎,硬化性唾液腺炎,後腹膜線維症などの合併もみられますが,硬化性胆管炎はステロイドに対する反応性が原発性硬化性胆管炎とは異なり.硬化性唾液腺炎はSSA/SSB抗体が陰性である点がSjogren症候群とは異なり,ともに異なる病態と考えられています.

検査所見

血液検査

高γグロブリン血症:γグロブリン≧2.0g/dl,IgG≧1800mg/dl,IgG4≧135mg/dl

自己抗体:抗核抗体(74%),抗ラクトフェリン抗体(74%),抗炭酸脱水素酵素U抗体(54%),リウマチ抗体(25%),抗平滑筋抗体(12%)(Intern Med 44:1215,2005)

HLA:本邦ではDR4,DQ4の頻度が高いと報告されています(膵臓17:307,2002)

膵内外分泌機能検査

PT-PABA:80.6%で陽性

セクレチン検査:70.0%で陽性

糖尿病:77.0%に合併

画像検査

腹部超音波検査:sausage-like appearnace

腹部CT検査:capsule-like rim

ERCP

FDG-PET

病理組織:IgG4陽性形質細胞浸潤

治療

初期治療

プレドニゾロン:30-40mg/日を2-4週間

維持治療

プレドニゾロン:5mg/日を1-3年間(Gut 58:1504,2009)

ステロイド治療抵抗例

アザチオプリン(Gastroentelorogy 134:706,2008)

Rituximab(Clin Gastroenterol Hepatol 6:364,2008)

膵外病変

IgG4 関連の包括診断基準(definite:1+2+3,probable:1+3,possible:1+2)

1.臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性腫大,腫瘤,結節,肥厚性病変を認める
2.血液学的に高 IgG4血症(135mg/dl以上)を認める
3.病理組織学的に以下の2つを認める
     @組織所見:著明なリンパ球,形質細胞の浸潤と線維化を認める
     AIgG4陽性形質細胞浸潤

IgG 関連硬化性胆管炎

IgG4 関連硬化性胆管炎は原発性硬化性胆管炎に比し高齢発症であり,胆管狭窄に起因する閉塞性黄疸で発症する症例が多く,炎症性腸疾患の合併がないなどの特徴がみられます.

尿細管間質性腎炎

画像検査による全身検索の過程で14%の頻度にみられると報告されています(Eur J Radiol 76:228,2010).

IgG4関連腎臓病診断基準

1.尿所見,腎機能検査に何らかの異常を認め,血液検査にて高IgG 血症,低補体血症,高 IgE 血症のいずれかを認める

2.画像上特徴的な異常所見(びまん性腎腫大,腎実質の多発性造影不良域,単発性腎腫瘤(hypovascular),腎盂壁肥厚病変)を認める

3.血液学的に高 IgG4 血症(135mg/dl以上)を認める

4.腎臓の病理組織学的に以下の 2 つの所見を認める

   a.著明なリンパ球,形質細胞の浸潤を認める

   b.浸潤細胞を取り囲む特徴的な線維化を認める

5.腎臓以外の臓器の病理組織学的に著明なリンパ球,形質細胞の浸潤と線維化を認める

 

涙腺・唾液腺炎(ミクリッツ病)

従来ミクリッツ病はシェーグレン症候群の一亜型と認識されてきましたが,抗SS-A/SS-Bをはじめとする自己抗体に乏しいこと,IgG4陽性形質細胞浸潤がみられること,シェーグレン症候群で特徴的な apple tree sign が観察されないことなどより,全身性IgG4関連疾患とみなされています.

IgG関連ミクリッツ病診断基準

1.涙腺,耳下腺,顎下腺の持続性(3カ月以上)対称性に2ペア以上の腫脹を認める

2.血清学的に高IgG4血症(135mg/dl以上)を認める

3.涙腺,唾液腺組織に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を認める

項目1と項目2または項目3を満たすものを,IgG4関連ミクリッツ病と診断する

後腹膜線維症

自己免疫性膵炎に20%の頻度にみられると報告されています(Eur J Radiol 76:228,2010).

肺病変

自己免疫性膵炎の70-80%に,FDG-PET で肺門・縦隔のリンパ節への集積をみると報告されています(Eur J Radiol 76:228,2010).

W. 遺伝性膵疾患について

定義

明らかな原因がなく,比較的若年に発症し,家系内集積性を示す膵炎です.1952年(Gstroenterol 21:54,1952)に報告されて以来,200家系以上が報告されています(Pancreatology 1:416,2001).本国では61家系153症例が遺伝性膵炎と診断されています(Pancreas 28:206,2004).

遺伝性膵炎診断基準 (厚労省難治性膵疾患調査研究班 2001)

再発性急性膵炎あるいは慢性膵炎症例で

1.世代に関係なく家系内に膵炎患者が2例以上存在する

2.膵炎患者の少なくとも1例には膵炎の既知の成因が存在しない

3.膵炎発症年齢は規定しないが,同胞症例のみの場合には少なくとも1例が40歳以下の発症

4.カチオニックトリプシノーゲンR122HあるいはN29I変異がある

1.2.3のすべてを満たすか,4がある場合,遺伝性膵炎と診断する

臨床像

平均発症年齢は14歳で,30歳までに発症しない場合はその後の膵炎発症リスクは10%といわれています.多くの症例は急性膵炎を繰り返しながら慢性膵炎に移行し,高頻度に膵癌を合併すると報告されています(J Natl Cancer Inst 89:442,1997).

治療

通常の膵炎と同様の治療が行なわれます.

 

V.嚢胞性膵疾患について

嚢胞性膵疾患とは

膵に嚢胞が形成された疾患で,内腔が結合組織で覆われた仮性膵嚢胞と,内腔が上皮で覆われた真性膵嚢胞に分類されます.

真性膵嚢胞

分類

非腫瘍性嚢胞

先天性嚢胞

貯留嚢胞

膵リンパ上皮性嚢胞

寄生虫性嚢胞

腫瘍性嚢胞

漿液性嚢胞腫瘍

粘液性嚢胞腫瘍

膵管内乳頭粘液性腫瘍

solid-pseudopapillary tumor

漿液性嚢胞性腫瘍 (SCN:serous cystic neoplasm)

特徴

中年女性の膵体尾部に多く発生し,ほとんどが良性の腫瘍です.数mmの小嚢胞が無数に集簇し,海綿様を呈するのが特徴で,膵管との交通はみられません.

粘液性嚢胞腫瘍 (MCN:mucinous cystic neoplasm)

特徴

粘液性嚢胞腺腫と粘液性嚢胞腺癌に分類されます.厚い線維性皮膜に覆われた球形の多房性腫瘍で,中年女性の膵体尾部に多く認められるという特徴があります.間質には卵巣様間質を伴い,免疫染色ではvimentin,smooth muscle actin,progesteron receptorおよびestrogen receptorなどが陽性となります.

予後

切除後の5年生存率は63%であり(Ann Surg 230:152,1999),診断がつけば手術の適応となります.

膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN:intraductal papillary mucinous neoplasm)

特徴

大量の粘液産生とそれによるVater乳頭部の開大および主膵管拡張がみられ,主膵管の拡張を主体とする主膵管型と膵管分枝の拡張を主体とする分枝型,および混合型に分類されます.中高年男性に多く,膵頭部に多く認められるという特徴があります .組織型により,胃型,腸型,膵胆型,好酸性細胞型に分類され,胃型は分枝型に腸型は主膵管型に多くみられます.

HRS:high-risk stigmata,WF:worrisome features

分枝型IPMNの診療アルゴリズム

予後

主膵管型は約80%が悪性のため手術適応となり,分枝型では壁在結節のあるものや径が3cmをこえるものが手術の適応となります.通常型膵癌に比して予後は良好と考えられ,切除後の5年生存率は78%と報告されています(Hepatogastroenterol 43: 692, 1996).

粘液性嚢胞腫瘍 と膵管内乳頭粘液性腫瘍の鑑別

表 日本膵臓学会嚢胞性膵腫瘍分類小委員会診断基準案 (2003)

 

粘液性嚢胞腫瘍

膵管内乳頭粘液性腫瘍

性別

ほとんどが女性

男性に多い

好発年齢

中年

壮年-高年

皮膜

認める

ほとんど認めない

膵管との交通

認めないことが多い

認める

膵管内進展

認めないことが多い

認める

随伴性膵炎

認めないことが多い

認めることが多い

卵巣様間質

認めることが多い

認めない

 

VI.膵癌について

成因について

K-ras遺伝子の変異に始まり,p16,p53,Smad4などの癌抑制因子の変異が加わり,PanIN(pancreatic intraepithelial neoplasia)を経て,膵癌が発生すると考えられています.

診断について

自覚症状

上腹部痛,背部痛

黄疸,体重減少

血液検査

耐糖能異常

膵癌の初期よりインスリン分泌の低下が指摘されています.

腫瘍マーカー

CA19-9,CEA,DUPAN2,SPAN1

血清酵素

アミラーゼ,エラスターゼ1,リパーゼ,トリプシン

画像診断

体外式超音波検査

CT検査

超音波内視鏡検査

MRCP

ERCP

血管造影検査

FDG-PET

病理診断

膵液細胞診

穿刺細胞診

分類

表 TNM分類(第6版)

病期

0 U V W
A B A B
T Tis T1 T2 T3 T1,T2,T3 T4 any T
N N0 N0 N0 N0 N1 any N any N
M M0 M0 M0 M0 M0 M0 M1

 

表 膵癌取扱い規約(第5版)

病期

M0 M1 M1
  N0 N1 N2 N3
Tis 0 - - - -
T1 T U V Wb
T2 U V V
T3 V V Wa
T4 Wa Wb

 

原発腫瘍 Tis 非浸潤癌
T1 腫瘍径が2p以下で膵内に限局したもの
T2 腫瘍径が2pを越え膵内に限局したもの
T3 癌の浸潤が膵内胆管,十二指腸,膵周囲組織のいずれかに及ぶもの
T4 癌の浸潤が隣接する大血管,膵外神経叢,他臓器のいずれかに及ぶもの
所属リンパ節 N0 リンパ節転移が認められないもの
N1 1群リンパ節のみに転移がある
N2 2群リンパ節まで転移がある
N3 3群リンパ節まで転移がある
NX リンパ節転移の程度が不明
遠隔転移 M0 遠隔転移を認めない
M1 遠隔転移を認める
MX 遠隔転移の有無不明

 

治療について

1次化学療法

ゲムシタビン

2001年4月より保険適応となりましたが,体表面積1m2あたり1000mgを週1回点滴静注し,3週投与後1週休薬を1コースとして継続投与 します.エルロチニブとの併用により平均生存期間9.23カ月,1年生存率33.0%と報告されています(Cancer Sci 102:425,2011).

S-1

遠隔転移を有する膵癌に対する有効性が認められ(Cancer Chemother Pharmacol 61:615,2008),2006年に保険適応となりました.

FOLFIRINOX 療法

遠隔転移を伴う膵癌においてゲムシタビン単独に比べ,有意な生存期間の延長が報告されています(New Engl J Ned 364:1817,2011).

ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法

遠隔転移を伴う膵癌においてゲムシタビン単独に比べ,有意な生存期間の延長が報告されています(New Engl J Ned 369:1691,2013).

ゲムシタビン+エルロチニブ併用療法

FOLFIRINOX 療法およびゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が適応でない,遠隔転移を伴う膵癌においてのみ推奨されています.

2次化学療法

ペムブロリズマブ

高頻度マイクロサテライト不安定性を有する場合に使用されますが,頻度は1-2%と使用される機会は多くはありません.

エヌトレクチニブ

NTRK(neurotrophic tyrosine receptor kinase)融合遺伝子が陽性の場合に適応がありますが,この頻度も1%未満と,極めてまれです).

リポソーマルイリノテカン

イリノテカンをリポソームのナノ粒子に封入したもので,フルオロウラシルおよびレボホリナートとの併用により(Lancet 387:545,2016),2020年6月に,2次化学療法として保険承認されました.

維持療法

オラパリブ

BRCA1/2遺伝子変異を有する転移性膵癌において,白金系抗悪性腫瘍薬を含む1次化学療法で,少なくとも4カ月間病勢の進行を認めなかった場合に適応となります(New Engl J Ned 381:317,2019).

放射線療法

1回に1.8-2.0Gy,総線量40-50Gyの体外照射が行われますが,単独では十分な効果が期待できず,抗腫瘍薬を併用した放射線化学療法が施行されます.5-FU併用化学放射線療法群では放射線療法単独群に比して有意な生存期間の延長(10.4カ月 vs 6.3カ月;p<0.05)が報告されています(Lancet 2:865,1969).また,ゲムシタビン併用化学放射線療法群とゲムシタビン単独化学療法群の生存期間の比較では11.2カ月 vs 9.2カ月(p=0.17)と報告されています(J Clin Oncol 29:4105,2011).

同種末梢血幹細胞移植療法

ミニ移植が検討されています.

手術

術前化学療法

切除可能症例に対する術前ゲムシタビン+S-1 療法が膵癌診療ガイドライン2019年版で推奨されています.

術後化学療法

術後補助療法として5-FU(Br J Cancer 92:1372,2005),ゲムシタビン(Br J Cancer 101:908,2009),S-1(Lancet:388:248,2016)の有用性が報告されています.

術前化学放射線療法

T3症例に対して化学放射線療法を施行した群では,手術単独群に比して有意な生存期間の延長を認めたと報告されています(平均生存期間;32カ月 vs 21カ月)(Cancer 89:314,2000).

術後化学放射線療法

術後化学放射線療法施行群と手術単独群の生存期間には明らかな有意差はみられていません(24.5カ月 vs 19.0カ月;p=0.099)(Ann Surg 230:776,1999).また,術後化学放射線療法施行群と化学療法群の生存期間にも明らかな有意差はみられていません(24.5カ月 vs 19.0カ月;p=0.099,Ann Surg 230:776,1999),(15.5カ月 vs 16.1カ月;p=0.24,Lancet 358:1576,2001).

conversion surgery

化学療法または化学放射線療法により腫瘍縮小が得られ,根治手術が可能と判断された切除不能膵癌症例に対し施行される外科的治療です.conversion surgery による予後延長が報告されています(J Hepatobiliary Pancreat Sci 20:590,2013).

 

予後について

手術可能症例の平均生存期間は11.7か月,5年生存率は13.4%であり,手術不能症例の平均生存期間は4.3か月,5年生存率は0%と,消化器癌の中では最も予後不良です.

 

Z神経内分泌腫瘍について

神経内分泌腫瘍とは

神経内分泌腫瘍は高分化型で比較的悪性度の低いNET(Neuroendocrine Tumor)と低分化型で悪性度の高いNEC(Neuroendocrine Carcinoma)に分類されます.

 

Ki-67指数(%)

核分裂指数(/2mm2

高分化

NET

G1

<3

<2

G2

3-20

2-20

G3

>20

>20

低分化

NEC

G3

>20

>20

インスリノーマ

頻度

膵内分泌腫瘍の70%を占め,90%は単発で良性.

症状

Whippleの三主徴 :空腹時の意識消失発作,発作時血糖≦50mg/dl,ブドウ糖負荷による症状改善

診断

Fajan's index:0.3≧インスリン / 血糖

Cペプチド高値

絶食試験

24時間の絶食で90%の症例に低血糖

インスリン分泌刺激試験

アミノ酸負荷試験

セクレチン負荷試験

セクレチンを3U/kgで静注し血清インスリン値の上昇をみる試験ですが,インスリノーマでは上昇がみられません.

選択的動脈造影検査

選択的動脈内刺激薬注入法

膵支配動脈よりカルシウムを注入し,肝静脈中のインスリン値を測定し,その上昇(>2)より腫瘍の局在を判定する検査です.

治療

外科的切除

ガストリノーマ

症状

再発を繰り返す消化性潰瘍 (Zollinger-Ellison症候群)

水様下痢

脂肪便

診断

セクレチン負荷試験

セクレチンを3U/kgで静注し血清ガストリン値の上昇をみる試験ですが,ガストリノーマでは20%以上の上昇がみられます.

24時間以内pHモニター

ソマトスタチン受容体シンチグラフィー

選択的動脈造影検査

選択的動脈内刺激薬注入法

膵支配動脈よりカルシウムまたはセクレチンを注入し,肝静脈中のガストリン値を測定し,その上昇(>2)より腫瘍の局在を判定する検査です.

 

治療

外科的切除

グルカゴノーマ

症状

表皮融解性移動性紅斑

耐糖能異常

診断

血清グルカゴン値

空腹時グルカゴン値≧1000pg/ml

ソマトスタチン受容体シンチグラフィー

治療

外科的切除

VIPoma

症状

多量の水様下痢

WDHA(watery diarrhea,hypokalemia,achlorhtdria)

診断

血中VIP値

ソマトスタチン受容体シンチグラフィー

治療

外科的切除

ソマトスタチノーマ

概念

ランゲルハンス島あるいは膵管上皮や腺房細胞に散在するD細胞が腫瘍化したものと考えられます.

症状

腹痛,体重減少

3主徴:糖尿病,胆石,脂肪便

診断

血中ソマトスタチン値

治療

外科的切除

非機能性

症状

腫瘍増大による症状

治療

外科的切除