T.胆嚢結石
定義
胆嚢の中にできる胆嚢結石と胆管の中にできる胆管結石があり,胆嚢炎や胆管炎の原因となります.
症状
ほとんどが無症状胆石で有症化するのは年率1-2%です.右季肋部痛が主症状で,心窩部や背部痛が出現することもあります.
治療
経過観察
薬による溶解療法
体外衝撃波破砕術
腹腔鏡下胆嚢摘出術
開腹術
予防
肥満,加齢で胆汁中のコレステロール増加
絶食や不規則な食生活で胆汁中の胆汁酸減少
食事療法
動物性脂肪は控える
コレステロールを控える
食物繊維を積極的にとる
U.急性胆嚢炎
定義
胆嚢に生じた急性の炎症性疾患.多くは胆石に起因するが,胆嚢の血行障害,化学的な傷害,細菌,原虫,寄生虫などの感染,また膠原病,アレルギー反応など発症に関与する要因は多彩である .
成因
90-95%は胆嚢結石,5-10%は無石胆嚢炎 .
診断基準
表 急性胆嚢炎の診断基準
A |
右季肋部痛(心窩部痛),圧痛,筋性防御,Murphy sign |
B |
発熱,白血球数またはCRPの上昇 |
C |
急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見 |
疑診:Aのいずれか,ならびにBのいずれかを認めるもの
確診:上記疑診に加え,Cを確認したもの
重症度
表 急性胆嚢炎の重症度判定基準
重症 | 黄疸 |
重篤な局所合併症:胆汁性腹膜炎,胆嚢周囲膿瘍,肝膿瘍 | |
胆嚢捻転症,気腫性胆嚢炎,壊疽性胆嚢炎,化膿性胆嚢炎 | |
中等症 |
高度の炎症反応(白血球数 > 14,000/mm3 または CRP > 10mg/dl) |
胆嚢周囲液体貯留 | |
胆嚢壁の高度炎症性変化:胆嚢壁不整像,高度の胆嚢壁肥厚 | |
軽症 |
上記を満たさないもの |
いずれかを満たす場合,それぞれ重症または中等症
治療
手術や緊急ドレナージ術の適応を考慮しながら,絶食,十分な輸液と電解質の補正,鎮痛剤,抗菌薬投与等を行ないます.
抗菌薬
第一選択:第2世代セフェム,重症には第3,4世代セフェム
第二選択:ニューキノロン,カルバペネム
V.胆嚢癌
男女比は1:1.25とやや女性に多く,好発年齢は70歳代と高齢者に多い疾患です.危険因子として,膵胆管合流異常(J Gastroenterol 47:731,2012),磁器様胆嚢(Langenbecks Arch Surg 386:224,2001),分節型胆嚢腺筋症(J Exp Clin Cancer Res 23:593,2004)などがあげられます.
症状
最も多い症状は右上腹部痛(50-80%)で,悪心嘔吐(15-68%),体重減少(10-72%),黄疸(10-44%),食欲不振(4-74%)が続きます(Lancet Oncol 4:731,2003).
超音波検査
早期胆嚢癌は隆起型(Ip型,Is型),表面型(IIa型,IIb型,IIc型),陥凹型(III型)に分類され,Ip型は全例m癌であったと報告されています(Gastrointest Endosc 58:536,2003).
CT検査
胆嚢内隆起性病変に対する単純+造影CTの感度は88%,特異度は87%,正診率は87%と報告されています(Arch Surg 133:735,1998).
ERCP
内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージにより採取された胆汁細胞診の感度は81%と高率であることが報告されています(Gastrointest Endosc 64:512,2006).
MRI
MRCPでは非侵襲的に胆管の全体像を把握することが可能です.
FDG-PET
リンパ節や肝への転移診断や重複癌の発見に有用とされています(胆道 25:72,2011).
表 TNM分類(第6版)
病期 |
0 |
I |
U |
V |
W |
||
A |
B |
A |
B |
||||
T |
Tis |
T1 |
T2 |
T3 |
T1,T2,T3 |
T4 |
any T |
N |
N0 |
N0 |
N0 |
N0 |
N1 |
any N |
any N |
M |
M0 |
M0 |
M0 |
M0 |
M0 |
M0 |
M1 |
表 胆道癌取扱い規約(第5版)
|
H0,N0,M(-) | H1,P1以上またはM(+) | |||
N0 | N1 | N2 | N3 | ||
pT1 | T | U | V | Wa | Wb |
pT2 | U | V | V | Wa | |
pT3 | V | V | Wa | Wb | |
pT4 | Wa | Wb | Wb |
原発腫瘍 T0 原発腫瘍を認めない Tis 上皮内癌 T1 粘膜固有層または筋層への浸潤を認める腫瘍 T2 筋層周囲結合組織への浸潤を認め,漿膜を越えた進展または肝への進展を認めない腫瘍 T3 漿膜 (臓側腹膜)を貫通,および/または,肝臓および/または他の1つの隣接臓器または組織に直接浸潤する腫瘍 T4 主門脈または肝動脈に浸潤,または複数の肝外臓器または組織に浸潤する腫瘍 TX 原発腫瘍の評価が不可能 所属リンパ節 N0 所属リンパ節転移が認められないもの N1 所属リンパ節転移があるもの NX リンパ節転移の程度が不明 遠隔転移 M0 遠隔転移を認めない M1 遠隔転移を認める MX 遠隔転移の有無不明
外科治療
T1の5年生存率は80.2%と報告されています(肝胆膵 64:461,2012).pT2の約半数は良性疾患の術後標本で発見され,二期的根治術が推奨されています(World J Surgery 35:1887,2011).
化学療法
5-FU
S-1は奏功率35.0%,生存期間中央値は9.4カ月と報告されています(Cancer Chemother Pharmacol 62:849,2008).
ゲムシタビン
2006年に胆道癌に対する適応が承認され,ゲムシタビン+シスプラチン併用療法,ゲムシタビン+オキサリプラチン併用療法,ゲムシタビン+S-1併用療法,ゲムシタビン+カペシタビン併用療法などが検討されています.
分子標的治療薬
EGFRをターゲットとする薬剤
エルロチニブ(J Clin Oncol 24:3069,2006),セツキシマブ(Onkologie 33:45,2010),パニツムバム(Ann Oncol 23:2341,2012)などの効果が検討されています.
VEGFRをターゲットとする薬剤
ベバシズマブ(Lancet Oncol 11:48,2010),ソラフェニブ(Invest New Drugs 30:1646,2012),セジラニブ(J Clin Oncol 28:218,2010),スニチニブ(Eur J Cancer 48:196,2012)などの効果が検討されています.
MEKをターゲットとする薬剤
セルメチニブの効果が検討されています(J Clin Oncol 29:2357,2011).
日本における切除率は66.3%であり,切除症例の5年生存率は47.6%と,非切除症例の5年生存率(1.7%)に比し,良好な予後が期待できます.
表 5年生存率
|
|
fStage I | 82.1% |
fStage II | 69.7% |
fStage III | 37.1% |
fStage IVa | 25.2% |
fStage IVb | 11.2% |
W.胆管結石
定義
胆嚢の中にできる胆嚢結石と胆管の中にできる胆管結石があり,胆嚢炎や胆管炎の原因となります.
症状
黄疸が出現することがあり,胆管炎を合併すると発熱が出現します.
診断
腹部超音波検査,腹部CT検査,MRI,ERCP
治療
内視鏡的治療
内視鏡的乳頭括約筋切開術 (EST)
合併症:出血(1.1-4.8%),穿孔(0.2-1.9%),急性胆管炎,急性膵炎,バスケット嵌頓
内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)
内視鏡的採石術 & 砕石術
|
|
EST | EPBD |
予後
結石再発:4-16%
X.急性胆管炎
診断
症状
Charcot 3徴:上腹部痛 + 発熱 + 黄疸
Reynolds 5徴:上腹部痛 + 発熱 + 黄疸 + ショック + 意識障害
血液検査
胆道系酵素の上昇
高ビリルビン血症
炎症反応の上昇
画像診断
腹部超音波検査,腹部CT検査,MRCP
診断基準
表 急性胆管炎の診断基準
A | 発熱 |
腹痛 | |
黄疸 |
|
B |
ALP,γ-GTPの上昇 |
白血球数,GRPの上昇 | |
画像所見(胆管拡張,狭窄,結石) |
疑診:Aのいずれか+Bの2項目を満たすもの
確診:Aのいずれか+Bのすべてを満たすもの
重症度
表 急性胆管炎の重症度判定基準
重症 | ショック |
菌血症 | |
意識障害 | |
急性腎不全 |
|
中等症 |
黄疸(ビリルビン > 2.0mg/dl) |
低アルブミン血症(アルブミン < 3.0g/dl) | |
腎機能障害(クレアチニン > 1.5mg/dl,尿素窒素 > 20mg/dl) | |
血小板数減少( < 12万/mm3) | |
39℃ 以上の高熱 |
|
軽症 |
上記を満たさないもの |
いずれかを満たす場合,それぞれ重症または中等症
治療
急性胆管炎では,原則として,胆道ドレナージ術の施行を前提とした初期治療(全身状態の改善,感染治療)を行なう.
抗菌薬
第一選択:第2世代セフェム,重症には第3,4世代セフェム
第二選択:ニューキノロン,カルバペネム
胆道ドレナージ
内視鏡的胆管ドレナージ
経皮経肝的胆管ドレナージ
手術
|
|
内視鏡的胆管ドレナージ | 経皮経肝的胆管ドレナージ |
Y.硬化性胆管炎
成因
成因は不明ですが,本邦における疫学調査で,炎症性腸疾患を合併する若年者と,自己免疫性膵炎を合併する高齢者の二峰性の年齢分布を示すことが明らかとなりました(日消誌 103:A36,2006).高齢者の胆管炎は自己免疫性膵炎と同様に胆管病変部にIgG4陽性形質細胞の浸潤がみられることより,IgG4関連硬化性胆管炎との名称が提唱されています(Am J Surg Pathol 28:1193, 2004).
臨床像 (Hepatol Res 29::153, 2004)
表 硬化性胆管炎の臨床像
男性に多い (59%) |
初発症状として黄疸(28%),掻痒感(16%)が多い |
好酸球増多(39%),抗核抗体陽性(36%) |
肝内外胆管障害(68%),肝内胆管障害(27%) |
診断
表 硬化性胆管炎の診断基準
胆道造影による典型的な胆管の異常所見 臨床像,血液生化学所見が矛盾しない IBDの既往,胆汁うっ滞による症状
ALPの3倍以上の上昇が6カ月以上持続
除外項目 AIDSに伴う胆道病変 胆道の腫瘍性病変 胆道の手術,外傷 胆道結石 胆道の先天性異常 腐蝕性硬化性胆管炎 虚血に伴う狭窄性変化 5-FUの動脈内投与に伴う胆道鏡策
図 ERCPによる beaded appearance
若年性では胆管壁に玉葱状の線維化と炎症性細胞浸潤がみられるのに対し,高齢者では肝外胆管に病変が多く,胆管周囲にはリンパ球や形質細胞の浸潤がみられ,胆管上皮は比較的保たれているという違いがみられます.
治療
薬物治療
UDCA
若年性は治療抵抗性ですが,高齢者ではステロイドが著効する症例がみられます.
内視鏡的治療
バルーン拡張術(Acta Radiol 44:147, 2003)
ステント挿入(Gastrointest Endosc 44:293, 1996)
外科的治療
胆道再建術(Ann Surg 227:412, 1998)
肝移植(Hepatol Res 29::153, 2004)
Z.胆管癌
成因
胆石や膵液の胆管内逆流などによる,胆管粘膜の慢性的刺激や炎症が成因と考えられ,原因疾患として,原発性硬化性胆管炎,肝内結石症,膵胆管合流異常,胆嚢結石,胆嚢腺筋症などがあげられます.
診断
超音波検査
腹部超音波検査で総胆管が7mm 以上に拡張した症例の14%に胆管癌が検出されたという報告があります(J Clin Gastroenterol 33:302,2001 ).
CT
FDG-PET
結節型胆管癌では良好な陽性率を示すといわれています.
MRCP (Magnetic Resonance Cholangiopancreatography)
ERCP (Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)
病期分類
TNM分類
表 TNM分類
病期
0 I U V W A B A B T Tis T1 T2 T3 T1,T2,T3 T4 Any T N N0 N0 N0 N0 N1 Any N Any N M M0 M0 M0 M0 M0 M0 M1
原発腫瘍 T0 原発腫瘍を認めない Tis 上皮内癌 T1 組織学的に胆管に限局する腫瘍 T2 胆管壁を越えて浸潤している腫瘍 T3 肝、胆嚢、膵臓、および/または門脈(右または左)あるいは肝動脈(右または左)の片側の分枝に浸潤している腫瘍 T4 以下のいずれかに浸潤している腫瘍:主門脈またはその両側の分枝、総肝動脈、または結腸、胃、十二指腸、腹壁などその他の隣接臓器 TX 原発腫瘍の評価が不可能 所属リンパ節 N0 所属リンパ節に転移を認めない N1 所属リンパ節転移あり NX 所属リンパ節の評価が不可能 遠隔転移 M0 遠隔転移を認めない M1 遠隔転移あり MX 隔転移の評価が不可能
治療
PTCD
PTCDルートへの癌細胞の播種が報告されているので注意が必用です(胆道 14:59,2000).
内ろう術
plastic stent,uncovered metalic stent,covered metalic stent などが使用されます.
放射線療法
体外照射,腔内照射ともに有用ですが,体外照射では55Gr 以上の大量照射が必要とされています(Am J Clin Oncol 26:422,2003).
化学療法
保険適応ではありませんが,gemcitabine の有効性が報告されています(Jpn J Clin Oncol 35:68,2005).
手術
胆管癌は遠隔転移が少ないといわれていますが,術後肝不全,膵液瘻などの重篤な合併症が予後を左右します,