0.RomeIIIについて

機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorder)のバイブルであるRomeIIが,RomeIIIに変更されました(Gastroenterology 130:1377-1556,2006).

RomeIII

A.機能性食道障害

C.機能性腸疾患

    A1.機能性胸やけ     C1.過敏性腸症候群
    A2.食道由来と考えられる機能性胸痛     C2.機能性腹部膨満
    A3.機能性嚥下障害     C3.機能性便秘
    A4.ヒステリー球(嚥下困難)

    C4.機能性下痢

B.機能性胃・十二指腸障害

    C5.特定不能の機能性腸疾患

    B1.機能性ディスペプシア

D.機能性腹痛症候群

          B1a.食後上腹部愁訴症候群

E.機能性胆嚢・Oddi括約筋障害

          B1b.心窩部痛症候群

    E1.機能性胆嚢障害
    B2.げっぷ障     E2.機能性胆汁Oddi括約筋障害
          B2a.空気嚥下症

    E3.機能性膵臓Oddi括約筋障害

          B2b.極度のげっぷ

F.機能性肛門・直腸障害

    B3.吐き気・嘔吐障害     F1.機能性便失禁
          B3a.慢性の突発的な吐き気     F2.機能性肛門・直腸痛
          B3b.機能性嘔吐     F3.機能性排便障害
          B3c.周期性嘔吐症候群 G.小児機能性消化管障害:新生児/幼児
    B4.成人の反芻症候群

H.小児機能性消化管障害:小児/青年

大きな変更点は1.機能性消化管障害の診断期間が診断の6カ月以上前に始まり,診断前の3 カ月間活動性であるに変更,2.機能性ディスペプシアの分類・診断基準・治療の変更,3.反芻症候群を食道障害から胃・十二指腸障害に移動,4.機能性腹痛症候群のカテゴリー作製,5.小児機能性消化管障害のカテゴリー作製などがあげられます.

 

T.機能性ディスペプシアについて

機能性ディスペプシアとは

 器質的病変を伴わない上腹部不定愁訴

機能性ディスペプシアの診断

診断基準

以下のものがひとつ以上あること

辛いと感じる食後のもたれ感

早期飽満感

心窩部痛

心窩部灼熱感

症状の原因となりそうな器質的疾患がないことを確認

上記2点を満たすもの(診断の6カ月以上前に始まり,診断前の3カ月間活動性であること)

検査

上部内視鏡検査,腹部超音波検査,一般的血液生化学検査で症状を説明するに足る異常所見は検出されないことが条件となります.

機能性ディスペプシアの分類

食後上腹部愁訴症候群

普通の量の食事でも,週に4-5回以上,辛いと感じるもたれ感があること

普通の量の食事でも,週に4-5回以上,早期飽満感のために食べきれないこと

上記の一方または両方を満たすもの(診断の6か月以上前に始まり,診断前の3か月間活動性であること)

心窩部痛症候群

心窩部に限局した中等症以上の痛みあるいは灼熱感が週に1回以上あること

痛みは間欠的であること

腹部全体,心窩部以外の腹部や胸部に限定したものではないこと

排便,放屁では改善しないこと

胆嚢やOddi筋の障害の診断基準を満たさないこと

上記のすべてを満たすもの(診断の6カ月以上前に始まり,診断前の3 カ月間活動性であること)

機能性ディスペプシアの治療

生活習慣の改善

ピロリ菌除菌

除菌治療により早期に好中球浸潤が消失し,次いでリンパ球を中心とした慢性炎症細胞が減少する(Aliment Pharmacol Ther 13:1303,1999)ことにより,胃運動に影響を与えると考えられています.

薬物療法

消化管運動機能賦活薬

5HT4受容体刺激薬

ドパミンD2受容体拮抗薬

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬:ストレスにより引き起こされた胃運動を回復し,効果を発現すると考えられています(Neurogastroenterol Motil 20:1051,2008).

 

酸分泌抑制薬

食後上腹部愁訴症候群では46%,心窩部痛症候群では61%が胃食道逆流症症状を有し(Scand J Gastroenterol 45:567,2010),酸分泌抑制剤の有効性が報告されている(J Gastroenterol 46:183,2011)が,その効果を疑問視する報告もみられる(Am J Gastroenterol 101:2096,2006).プロトンポンプインヒビターとH2受容体拮抗薬の比較では効果は同等であったと報告されている(Cochrane Database Syst Rev 4:CD001960,2006).

鎮痙薬

抗コリン薬

漢方

六君子湯 が,胃排泄促進作用(Aliment Pharmacol Ther 7:459,1993),適応性弛緩促進作用(Drugs Exp Clin Res 25:211,1999),胃粘液増加作用(Comp Biochem Physiol C Pharmacol Toxicol Endocrinol 113:17,1996),グレリン上昇作用(Hepatogastroenterology 59:62,2012 )により,効果を発揮すると考えられています.

抗不安薬

偽薬に対するタンドスピロン(®セディール)の有用性が報告されています(32.0% vs 5.7%,p<0.005)(Am J Gastroenterol 104:2779,2009).

抗うつ薬

三環系抗うつ薬

選択的セロトニン再取り込み阻害薬

スルピリド

 

U.過敏性腸症候群について

過敏性腸症候群とは

消化管の器質的疾患を伴わない運動障害により腹痛,便秘,下痢などが起こる病態と定義されます.

なお,腹部膨満感だけで便通異常を伴わないものを機能性腹部膨満,便通異常だけで腹部不快感を伴わないものを機能性便秘または機能性下痢としています.腹痛のみで便通異常を伴わないものは,機能性腹痛症候群に分類されます .

過敏性腸症候群の成因

脳腸相関

脳→腸

ストレスにより誘発したcorticotropm-releasmg hormone(CRH)は室傍核と迷走神経背側核にあるCRH receptor type 1 受容体を介して下部消化管の運動を亢進させます.

腸→脳

腸管運動や腸管内圧の変化が求心性の迷走神経路を介して延髄弧束核に伝達され腹部症状として認識され ます.また,上行性内臓痛経路は脊髄後根神経節を介して視床,島皮質,前帯状回へ伝えられると考えられていますが,内蔵知覚過敏に島皮質,前帯状回の活性化の関与が考えられています.

消化管の運動異常

外的刺激に対して腸管の過剰な反応

消化管の感覚過敏

痛み刺激に対する閾値の低下

過敏性腸症候群の分類

便秘型

硬便または兎糞状便が25%以上あり,軟便(泥状便)または水様便が25%未満のもの

下痢型

軟便(泥状便)または水様便が25%以上あり,硬便または兎糞状便が25%未満のもの

混合型

硬便または兎糞状便が25%以上あり,軟便(泥状便)または水様便も25%以上のもの

分類不能型

上記のいずれも満たさないもの

過敏性腸症候群の診断 (RomrT:1989年,RomeU:1999年)

RomeV(2006年)

排便によって症状が軽減する
発症時に排便頻度の変化がある
発症時に便形状(外観)の変化がある

上記の2項目を満たすもの(診断の6カ月以上前に始まり,診断前の3カ月間活動性であること)

重症度判定表

過敏性腸症候群の重症度判定表

重症度

軽症

中等症

重症

病悩期間 <3カ月 3-6カ月 >6カ月
排便回数 下痢 1-2 回 / 日 ≧3回 / 日 ≧3回 / 日
便秘 1回 / 1-2日  ≧1回 / 3日 ≧1回 / 3日
便の性状 下痢 軟便 軟便 - 水様便 軟便〜水様便
便秘 硬便 兎糞便 兎糞便
腹部症状 軽度 中等度 強度
精神症状 軽度 中等度 高度

過敏性腸症候群の治療

生活習慣の改善

食生活の改善

便秘型:食物繊維を多く含む野菜

下痢型:脂肪食,高炭水化物食を控える

心理療法

支持的療法,自律訓練法,筋弛緩法

薬物療法

腸内環境改善薬

ポリカルボフィルカルシウム(ポリフル(R),コロネル(R)

消化管運動機能調整薬

マレイン酸トリメブチン(セレキノン(R)),クエン酸モサプリド(ガスモチン(R)),臭化メペンゾラ−ト(トランコロン(R)),セロトニン5-HT3受容体拮抗(イリボー(R)

粘膜上皮機能変容薬

ルビプロストン(アミティーザ(R)

抗コリン薬

臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン(R)),臭化チメピジウム(セスデン(R)),臭化チキジウム(チアトン(R)

緩下剤

酸化マグネシウム,センナ(アロ−ゼン(R)),センノシド(プルゼニド(R)),ピコスルファ−トナトリウム(ラキソベロン(R)

止痢剤

タンナルビン,塩酸ロペラミド(ロペミン(R)

整腸剤

乳酸菌製剤(ラックビ−(R),ビオフェルミン(R)

抗不安薬

クロチアゼパム(リ−ゼ(R)),クエン酸タンドスピロン(セディ−ル(R)),エチゾラム(デパス(R)),ジアゼパム(セルシン(R),ホリゾン(R)

抗うつ薬

塩酸イミプラミン(トフラニ−ル(R))、塩酸アミトリプチリン(トリプタノ−ル(R)) ,スルピリド(ドグマチ−ル(R)