T.腸管感染症
定義
腸管における感染症であり,毒素型(生体外毒素型),感染毒素型(生体内毒素型),侵入型(感染侵入型)に部類されます.
原因
細菌 | 好気性 | サルモネラ属(チフス菌,パラチフス菌) |
ビブリオ属(コレラ菌,腸炎ビブリオ) | ||
赤痢菌,黄色ブドウ球菌,下痢原性大腸菌 | ||
エルシニア菌,セレウス菌 | ||
微好気性 | カンピロバクター | |
嫌気性 | クロストリジウム・ディフィシレ | |
ウイルス | レオウイルス科 | ロタウイルス |
アデノウイルス科 | アデノウイルス | |
カリシウイルス科 | ノロウイルス | |
原虫 | 赤痢アメーバ | |
クリプトスポリジウム | ||
ランブル鞭毛虫 | ||
イソスポラ |
症状
細菌性食中毒
潜伏期 | 原因食 | 症状 | |||||
発熱 | 腹痛 | 下痢 | 嘔気・嘔吐 | ||||
感染性 | サルモネラ | 7-72 時間 | 肉,卵 | +++ | ++ | ++ | + |
カンピロバクター | 2-5 日 | 肉,卵 | + | ++ | ++ | ++ | |
病原性大腸菌 | 1-3日 | 牛肉 | + | + | + | ++ | |
ビブリオ | 5-24 時間 | 魚介類 | + | +++ | +++ | ++ | |
ウェルシュ菌 | 8-20 時間 | 肉,魚介類 | - | +++ | + | + | |
毒素性 | ブドウ球菌 | 0.5-6 時間 | おにぎり | - | + | + | +++ |
ボツリヌス菌 | 2 時間-8日 | キャビア | - | + | - | + |
検査
便検査 培養 一般細菌培養 ウイルス培養 顕微鏡検査 赤痢アメーバ,クリプトスポリジウム,ランブル鞭毛虫 毒素 クロストリジウム・ディフィシレ毒素,大腸菌O157毒素 血液検査 培養 チフス菌,パラチフス菌 抗体検査 赤痢アメーバ 組織検査 生検 赤痢アメーバ,好酸菌 治療
脱水の補正が中心となりますが,悪心・嘔吐の強い場合は鎮吐剤が投与されます.止痢剤は通常使用されず,整腸剤が投与されます.感染型の細菌性感染に対し抗菌剤が投与されます.
適応(+) 細菌性赤痢 ノルフロキサシン,レボフロキサシン チフス菌 クロラムフェニコール,ST 剤 コレラ菌 ノルフロキサシン,レボフロキサシン 赤痢アメーバ エリスロマイシン ランブル鞭毛虫 適応(±) サルモネラ菌 レボフラキサシン 腸管出血性大腸菌(EHEC) ノルフロキサシン,ホスホマイシン カンピロバクター アジスロマイシン MRSA腸炎 バンコマイシン クロストリジウム・ディフィシレ バンコマイシン 隔離期間
赤痢:抗菌薬の服薬中止後48時間以上の間隔をおいた連続2回の検便でいずれも陰性.
腸管出血性大腸菌:24時間以上の間隔をおいた連続2回の検便でいずれも陰性.抗菌薬をとよした場合は,服薬中と服薬中止後48時間以上経過した時点の検便でいずれも陰性.
II.ノロウイルスについて
ノロウイルスとは
腸管感染症を引き起こす約7500塩基のプラス鎖の一本鎖RNAウイルスで,2006年冬に大流行しました.1968年に米国ノーウォークの小学校で集団発生した胃腸炎症例から発見されたことより,ノーウォークウイルスと呼ばれました.また,その形態から小型球形ウイルス(small round-structured virus)とも呼ばれましたが,現在は,カリシウイルス科に属するノロウイルス属に分類されます. カプシド遺伝子の配列で5群に分類され,T型,U型,W型が人に感染するとされています.日本では12-3月を中心に,全国で発生がみられます.
図.ノロウイルス
感染経路
食品からの感染
汚染されたカキなどの2枚貝を十分加熱せず摂取した場合,感染の危険があります.
調理者からの感染
感染した調理者が十分な手洗いを施行せず調理した場合,感染の危険があります.
ヒトからヒトへの感染
感染者の糞便や嘔吐物を処理する際,経口的に感染する場合があります.
症状
潜伏期は1-2日で,悪心,嘔吐,下痢,腹痛,発熱等がみられますが,通常は数日の経過で軽快します. 感染力は強く,10-100個のウイルスで感染が成立するとされます. また,ノロウイルスの感染性力は血液型の糖鎖(シアル酸)と関係し,A型ならびにO型のヒトは感染しやすいとされています. 小児では感染後3週間以上,成人では2-3週間にわたり遺伝子が検出されると報告されています(食品衛生研究 56:9,2006).
検査
PCR法,EIA法,ICA(Immunochromatographic assay)法が実用化されています.現時点では,3歳未満の患者,65歳以上の患者,悪性腫瘍の診断が確定している患者,臓器移植後の患者,抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、又は免疫抑制効果のある薬剤を投与中の患者に対してCIA法のみが保険の適応となっています.
治療
根本的な治療はなく,下痢に対する補液等の対症療法が中心となります .
予防
ノロウイルスはカキ,アサリ,シジミなどの二枚貝で増殖するとされていますが,85℃以上,1分間以上の加熱によって感染性を失う ため,貝類の料理の際には充分な加熱が必要です.また,次亜塩素酸ナトリウムが有効とされますが,手洗いが重要です.
V.抗生剤
ペニシリン系
1929年にFlemingにより発見された,もっとも古い歴史を持つ抗生物質です.細胞壁のペニシリン結合蛋白(PBP:penicillin binding protein )に結合することにより細菌細胞壁の合成を阻害し,殺菌的に作用します.殺菌作用は最小発育阻止濃度(MIC)以上の一定時間(time above MIC)が必要です.強い抗菌作用を有しますが,PBP変異,β-ラクタマーゼ産生による耐性菌が問題となっています.
セフェム系
第一世代はグラム陽性球菌に,第二世代はグラム陰性菌に対して抗菌力を有し,セファマイシン系は嫌気性菌に対しても抗菌力を有しています.第三世代はさらにグラム陰性菌に対する抗菌力が強化されています.
注射薬
ペニシリン系 |
ペニシリン |
benzylpenicillin |
PCG |
ペニシリンG |
600万U×2-4/日 |
肺炎球菌,髄膜炎菌 |
合成ペニシリン | ampicillin | ABPC | ペントレックス | 1-2g×2-3/日 | 肺炎球菌 | |
aspoxicillin | ASPC | ドイル | 1-2g×2-3/日 | 肺炎球菌 | ||
piperacillin | PIPC | ペントシリン | 1-2g×2-4/日 | 緑膿菌 | ||
複合ペニシリン | ampicillin/cloxacillin | ABPC/MCIPC | ビクシリンS | 1-2g×2/日 | ブドウ球菌 | |
ampicillin/sulbactam | ABPC/SBT | ユナシンS | 1.5-2g×2-3/日 | |||
セフェム系 | 第一世代 | cefazolin | CEZ | セファメジン | 1-2g×2-3/日 | G(+)+ 一部のG(-) |
第二世代 | cefotiam | CTM | パンスポリン | 1-2g×2-4/日 | G(+)+ 一部のG(-) | |
Cefoxitin | CFX | マーキシン | ||||
cefmetazole | CMZ | セフメタゾン | 1-2g×2-4/日 | G(+)+ 一部のG(-) | ||
flomoxef | FMOX | フルマリン | ||||
第三世代 | cefminox | CMNX | メイセリン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | |
cefbuperazone | CBPZ | トミポラン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
cefotetan | CTT | ヤマテタン | ||||
cefotaxime | CTX | セフォタックス | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
ceftizoxime | CZX | エポセリン | 0.5-1g×2-4/日 | 販売中止 | ||
cefmenoxime | CMX | ベストコール | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
ceftriaxone | CTRX | ロセフィン | 0.5-1g×1-2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
latamoxef | LMOX | シオマリン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
cefoperazone | CPZ | セフォビット | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
ceftazidime | CAZ | モダシン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
cefpimizole | CPIZ | アジセフ | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
cefuzonam | CZON | コスモシン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
cefoperazone | CPZ/SBT | スルペラゾン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ 一部のG(+) | ||
cefsulodin | CFZ | タケスリン | 1-2g×2-4/日 | 緑膿菌のみ | ||
第四世代 | cefepime | CFPM | マキシピーム | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ G(+) | |
cefpirome | CPR | ブロアクト | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ G(+) | ||
cephalosporin | CZOP | ファーストシン | 0.5-1g×2/日 | G(-)+ G(+) | ||
モノバクタム系 | aztreonam | AZT | アザクタム | 0.5-1g×2/日 | G(-) | |
carumonam | CRMN | アマスリン | 0.5-1g×2/日 | G(-) | ||
カルバペネム系 | imipenem/cilastatin | IPM/CS | チエナム | 1-2g/日(分2-4) | G(-)+ G(+)+ 嫌気性菌 | |
panipenem/betamipron | PAPM/BP | カルベニン | 1-2g/日(分2-4) | G(-)+ G(+)+ 嫌気性菌 | ||
meropenem | MEPM | メロペン | 1-2g/日(分2-4) | G(-)+ G(+)+ 嫌気性菌 | ||
biapenem | BIPM | オメガシン | 0.6-1.2g/日(分2) | G(-)+ G(+)+ 嫌気性菌 | ||
キノロン系 | ciprofloxacin | CPFX | シプロキサン | |||
pazufloxacin | PZFX | パズクロス | ||||
アミノグリコシド系 | ゲンタマイシン系 | gentamicin | GM | ゲンタシン | 80-120mg/日 (分2-3) | G(-)+ G(+) |
sisomicin | SISO | エキストラマイシン | 100mg/日(分1-2) | G(-)+ G(+) | ||
netilmicin | NTL | ネチリン | 200mg/日(分2) | G(-)+ G(+) | ||
カナマイシン系 | amikacin | AMK | アミカシン | 200-400mg/日 (分2) | G(-)+ G(+) | |
dibekacin | DKB | パニマイシン | 100mg/日(分1-2) | G(-)+ G(+) | ||
その他 | astromicin | ASTM | フォーチミシン | 400mg/日(分2) | G(-)+ G(+) | |
テトラサイクリン系 | minocycline | MINO | ミノマイシン | 200mg/日(分2) | ||
グリコペプチド系 | vancomycin | VCM | 2g/日(分2-4) | |||
teicoplanin | TEIC | 200-400mg/日 (分1) | ||||
リンコマイシン系 | clindamycin | CLDM | ダラシンP | 1200mg/日(分2) | G(+) | |
ホスホマイシン系 | fosmicin | FOM | ホスミシン | 2-4g/日(分2) | G(-)+ G(+) | |
オキサゾリジノン系 | linezolid | LZD | サイボックス | VCM耐性腸球菌 | ||
抗真菌薬 | ポリエン系 | amphotericinB | AMPH | ファンギゾン | 50mg×1/日 | |
アゾール系 | miconazole | MCZ | フロリードF | 200-400mg×2-3/日 | ||
fluconazole | FLCZ | ジフルカン | 50-200mg×1/日 | |||
キャンディン系 | micafungin | MCFG | ファンガード | |||
抗ウイルス薬 | vidarabine | Ara-A | アラセナA | 10-15mg/kg/日 | ||
aciclovir | ACV | ゾビラックス | 5-10mg/kg×3/日 | |||
抗原虫薬 | pentamidine | PM | ベナンバックス | 4mg/kg/日 |