肝炎ウイルスについて

主たる炎症の場が肝細胞であり,肝炎を主症状とするウイルスを肝炎ウイルスといいます.現在A型,B型,C型,D型,E型,G型,TT型の7種類が知られています.

表 肝炎ウイルス
  A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎 D型肝炎 E型肝炎
ウイルス ss+RNA (7.5 kb) dsDNA (3.2 kb) ss+RNA (9.6 kb) ss-RNA (1.7 kb) ss+RNA (7.2 kb)
ピコルナウイルス ヘパドナウイルス フラビウイルス 未分類 ヘペウイルス
粒子径 27nm 42nm 50-60nm 36nm 34nm
同定年 1973 1965 1989 1977 1983
発見方法 形態学的 免疫学的 遺伝子的 免疫学的 形態学的
感染経路 経口 非経口 非経口 非経口 経口
潜伏期間 15-50日 6週-6カ月 2週間-26週間   15-60日
慢性化 - ± + ± -
劇症化 0.1% 1-2% <0.1% 2-20% 2-5%-
ワクチン + + -   -

D型肝炎ウイルス(HDV)

Rizzettoらにより発見(Gut 18:997,1977)された不完全なRNAウイルスで,増殖するにはB型肝炎ウイルスが必要です.日本での頻度は低く,HBs抗原陽性者の1-2%未満といわれていますが,HBV DNAの増加を伴わないB型慢性肝炎の急性増悪をみた場合には,HDVの重複感染を疑う必要があります.HDVに対する治療法はなく,ラミブジンも逆転写酵素を有さないHDVには無効ですが,HBs抗原量の低下による間接的な効果が期待されます.

E型肝炎ウイルス(HEV)

HEV

Balayan によって発見されたウイルスです(Evidence for a virus in non-A, non-B hepatitis transmitted via the fecal-oral route.Intervirology 20:23-31,1983).遺伝子型は4型に分類され,1型と2型が発展途上国型,3型と4型は先進国型とされ,日本では3型と4型の発生がみられています.3型と4型はヒトだけでなくブタ,イノシシ,シカなどの動物にも感染し,4型で重症化しやすいと考えられています.従来熱帯・亜熱帯地域でみられる地域的な急性肝炎と認識されていましたが,過去に国内で発症した劇症肝炎の原因である可能性もあり注目されています.日本での健康人での抗体保有率は1.9-14.1%と報告されています(J Med Virol 62:327,2000).2004年8月に北海道北見市内の焼き肉店で,豚の内臓などを食べた6人がE型肝炎を発症し,うち男性1人が劇症肝炎で死亡し ています.日本における感染経路としては,輸入感染,前述の動物からの感染,輸血による感染(Transfusion 44:934,2004)が考えられています.

症状

A型肝炎と同様,嘔気・嘔吐,食欲不振等の消化器症状や黄疸,腹痛等がみられます. 妊婦ではE型肝炎に罹患しやすく(妊婦 / 女性 / 男性:17.3% / 2.1% / 2.8%),劇症化しやすい(妊婦 / 女性 / 男性:22.2% / 0% / 2.8%)と報告されています(Am J Med 70:252,1981).

診断

HEV RNA,IgM型HEV抗体,IgA型HEV抗体により診断されます.健康成人を対象とした疫学調査では5.3%で,過去の感染を示すIgG型HEV抗体が検出されています. なお,改正感染症法で四類感染症に分類され,直ちに届出が必要となっています.

治療

対症療法が中心ですが,劇症化した場合には人工肝補助 療法が必要です.現在ワクチンが開発されていますが,まだ実用化には至っていません. なお,ウイルスの不活化には70,10分以上の加熱が必要とされています.

予後

通常1カ月の経過で自然治癒し慢性化はしないとされていますが,免疫能が低下した場合慢性化することが報告されています(New Engl J Med 358:811,2008).また,1型と2型では妊婦で劇症肝炎の発症率が高いとされています(Am J Med 70:252,1981).

図.E型肝炎流行地

 

G型肝炎ウイルス

Simons らが新しい肝炎ウイルスとして GBV-C を(Nat Med 1:564,1995),Linnen らが HGV を(Science 271:505,1996)報告しましたが,同じウイルスと考えられています.発見当初は肝炎ウイルスと考えられていましたが,現在では肝炎の原因とならないと考えられています(New Engl J Med 336:747,1997).血液を介して感染するフラビウイルス科のRNAウイルスで,日本人の陽性率は1-2%,肝炎症例で10%と報告されています.

TT型肝炎ウイルス

日本で肝炎患者血液から発見されたサーコウイルス科のDNAウイルスです(Biochem Biophys Res Commun 241:92,1997).当初は肝炎ウイルスと考えられましたが,現在では否定的です(Lancet 352:195-87,1998).日本人の場合一般人口で90%の陽性率で,年齢が高いほど陽性率が高くなります.

肝炎ウイルスに対する対策

国内献血スクリーニング

検査 施行日 肝炎発症率
AST 1964年〜 50%
HBs抗原(IES) 1972年 4月〜 20%
HBs抗原(RPHA) 1978年〜 20%
ALT 1981年〜 20%
HBc抗体 1989年11月〜 20%
HCV抗体(第1世代) 1989年11月〜 5%
HCV抗体(第2世代) 1992年7月〜 0.1%

肝炎ウイルス検診

老人保健法により,職場で健康診断を受ける機会のない40歳以上を対象とした肝炎ウイルス検診が,2002年4月より5カ年計画で実施されています.節目検診と節目外検診からなり,節目検診は40歳,45歳,50歳,55歳,60歳,65歳,70歳が対象となり,節目外検診は節目検診に該当せず,@過去に肝機能異常を指摘されたことがある方,A広範な外科的処置を受けたことのある方,または,妊娠・分娩時に多量の出血をしたことがある方で,定期的に肝機能検査を受けていない方,B基本健康診査の結果ALT(GPT)値により要指導とされた方が対象となります.

ワクチンの開発

HBワクチン

HBワクチンの薬価収載 : 1985年12月〜
B型肝炎母子感染防止事業 : 1995年4月〜

肝炎治療医療費助成制度

2008年より,B型・C型肝炎のINF治療およびC型肝炎(慢性肝炎,肝硬変)のINFフリー治療ならびにB型肝炎(慢性肝炎,肝硬変)の核酸アナログ製剤治療に対する医療費助成制度が行なわれています.

肝がん・重症肝硬変治療研究促進事業

2018年12月より開始され,B型・C型肝炎ウイルスに起因する肝がん・重症肝硬変が対象となります.

特定B型,C型肝炎ウイルス感染者給付金

特定B型肝炎ウイルス感染者給付金

7歳になるまでの集団予防接種等(昭和23年7月1日〜昭和63年1月27日)における注射器の連続使用によるB型肝炎ウイルス感染者およびその母子感染者が対象となります.

特定C型肝炎ウイルス感染者給付金

大量出血などで特定の血液製剤の投与を受けたことによる,C型肝炎感染者およびその相続人が対象です.請求期限は2023年1月16日です.

身体障害者福祉法

2010年4月より一定の基準を満たした肝機能障害者に身体障害者手帳が交付され,重症度の程度により医療費が一部軽減されます.

 

その他の肝炎

サイトメガロウイルス(CMV)

CMV

CMVはヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスであり,日本人成人では80-90%が抗体を有しています.

診断

IgM型

生検組織で核内封入体を有する巨細胞の検出

EBウイルス(EBV)

検査について

肝生検

肝臓に細い針を刺して肝臓の組織の一部を採取し,組織を調べる検査です.この検査により,肝障害の原因,肝臓の障害の進行具合,悪性の有無などを調べることができます.この方法により確実な診断が可能ですが,出血や腫瘍が腹腔内に播種する危険がないわけではありません.

エコー下肝生検

超音波装置で肝臓を刺す位置を決め,皮膚と腹膜を局所麻酔した後に,皮膚の上から肝臓に針を刺し組織を採取する方法です.

腹腔鏡下肝生検

腹壁を1cmほど切開し腹腔鏡と呼ばれる内視鏡を挿入し,肝臓を観察しながら組織を採取する方法です,

針刺し事故について (MMWR Recomm Rep 50:1,2001)

肝炎発症リスク

HBV

HCV

HIV

HBe抗原 (-) HBe抗原 (+)
1 - 6 % 22 - 31 % 1.8 % (0 - 7 %) 0.3 % (0.2 - 0.5 %)